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「進藤さん、今見えてるものは何ですか?」
「――版画。……瞳の中に髑髏が描いてある。」
「瞳の中に髑髏?」
亜希はこくりと頷く。
「エシャーの版画。」
「エシャーの版画ね。他には?」
「――真っ黒な手。」
「……真っ黒な手ね。」
「うん、その手が……私を壊すの。」
浜川が優しく語りかけてくる。
「……どんな風に?」
亜希が首を横に振る。
「上手く伝えられないの?」
再度、首を横に振る。
「分かったわ。じゃあ、別の質問にしましょう。」
亜希は虚ろな目をしたままで、次々に質問に答えていく。
その頃、亜希の目の前にはリアルな幻覚が広がっていた。
――助けて。
目を逸らしたいのに逸らせない。
男が耳元近くで、喉を鳴らして笑う。
――恐怖に体が強張る。
猿轡を噛まされて、縄目が体に食い込んでいく。
――痺れるような痛みと、叩かれて熱を帯びた肌。
そして、肉食の獣のような眼差しに身が震える。
――逃げ出したい。
生け贄にされた記憶が、辺りに広がるに連れて、周りの世界は歪んでいく。
――上が下で、下が上。
部分、部分を見てみればそうおかしな事もないのに、全体的にみると狂っている。
――生か、死か。
ハムレットのように白黒問う事は出来ない。
――生きながらの地獄。
泣き叫んでも、誰にも声は届かない。
そして、中年の男が、喉笛を噛み切るかのように首筋にしゃぶりついてくる。
――気持ち悪い。
服がはだけて、乱暴に体を大きな手が掴んでくる。
そして、クスクス笑うと耳元で囁く。
「――襲われてるのに感じてるんだね。」
「そんなことはない」と言いたくても、体も心ももはや言う事は効かず、触れられる度に喘いでしまう。
――キタナイ。
触れられたところから、身体は汚れ、心は朽ちていく。
「薬も効いてるみたいだし気持ちいいんだろ? 認めていいんだよ?」
男が焦らすように縄を引っ張ると、腫れた肌が痺れるように痛くて痙攣してしまう。
「気に入ったよ。確かに良いお土産だ。」
ニタリと笑うと、再び亜希の体を貪り始める。
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