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 ギシリとホテルのベッドのスプリングが軋む。  ムスクの香りが亜希を包む。 「まだ薬が効いてるみたいだな……。」  脇腹へと指が伸びてくる感覚に亜希が身を捩ると、軽い力で仰向けへと反転させられる。  ――まるで、魔法のよう。  高津の指の動きに、身体が自分の意思が働く前に動いてしまう。  そして、高津はそっと亜希のサイドの髪を耳の後ろへ掻きやると、流麗な笑みを浮かべる。 「――いい子、だ。」  そっと上体を傾け、亜希がぼんやりと見つめていると、「目を閉じて」と耳元でそう囁く。  ――心地よい声。  ゆっくりと眼を瞑ると、唇に柔らかな感触が触れた。  最初は確かめるように唇で互いを探し、続けてゆっくりと唇を食む。  ――焦れったい。  薬のせいか、自分の性なのかも、もう分からない。  ――ただ、彼が欲しい。  そして、警戒を解き、高津を受け容れ、舌を絡めていく。  ――堕ちる。  亜希はゆっくりと目を開けると、うっとりとした表情で高津を見つめた。 「――いい表情だ。」  そして、神聖な儀式のように、喉元、胸元、鳩尾とキスをし始める。 「……今の君はとても可愛いよ。とても欲しくなる。」  その言葉にぞくりと悪寒が走る。 「――止めて。」  唇を這わせたままで見つめてくる彼の頭を掴むと、亜希はそれ以上を拒んだ。  高津は眉間に皺を寄せる。 「……まだ、あいつに操立てするのか?」  冷笑とも、失笑とも思える笑みを浮かべて見つめてくる。  ――身も凍るような眼差し。  高津は亜希の体から身を離すと、熱を帯びて腫れた肌に乱暴に触れた。  思わず呻き声が漏れる。  ――それでも。  亜希が力ないまま、頑に首を横に振る。  すると、高津は亜希の腕を取ると、手の甲にキスをした。  ――背徳感。  アダムとイブを楽園から追放するきっかけを作った蛇は、この男じゃないだろうか。 「――君は真っ黒だ。……俺と同じになったんだよ。」  そう告げると、幼子がお気に入りのぬいぐるみを抱くみたいにして、亜希を抱き締める。 「――君は俺の物になる。」  再びギシリとベッドが軋む。 「――久保なんか捨てて、俺のところにおいで。」  ――悪い魔法を掛けるみたいに。  そして、もう一度、唇を重ねて、頭の芯が痺れるようなキスをする。
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