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何も考えられない。
――窒息してしまう。
深い闇に落ちていく。
――地の底へ。
やがて深い闇へと落ち切ると、そこはいつもの夢の世界だった。
――鏡が乱立する世界。
起き上がると、波紋が広がっていく。
〈高津さんについては、話したくない?〉
浜川の声が聞こえる。
「……ううん。」
鏡には冷たい瞳の高津が映っている。
――マネキンみたい。
端整な顔立ちだから、余計にそんな印象を覚える。
〈……どんな人?〉
「――分からない。」
冷たいのか、優しいのか。
愛しいのか、憎いのか。
でも、魅力的なヒトで。
――惑う。
「……分かるのは、とっても淋しがってるって事だけ。」
そっと、高津の映り込む鏡に触れ、彼を見上げる。
その視線は絡む事なく、遠くを見つめたままだ。
「このヒトを独りにしたくない……。」
「俺と同じだ」と言われた時、呪いにも似た悪い魔法に掛けられた。
〈何故……?〉
「……高津さんは私と同じだから。」
風切り羽根を切られた鳥のように、自由を求めて檻に体当たりして傷付く。
――救けは来ない。
血が出るまで叫んでも、喚いても。
「このヒトを独りにしちゃダメなの……。」
それは自分を見捨てる事になるから。
〈――その人が心配なのね?〉
こくんと頷く。
と、一陣の風が吹く。
思わず目を塞ぐ。
そして、再びを目を明けると、高津がすぐ傍にいる。
傍観者としての視線ではなくなる。
高津の腕に手を伸ばす。
そして、甘えるようにその腕に擦り寄る。
しかし、彼は何も言わないまま、唇を噛み締め、表情を崩す。
――辛そうな表情。
『――あれ程、俺を裏切るなって言ったのに。』
その言葉と共に高津に腕を振り払われ、バランスを崩す。
それと共に無数の手が襲ってくる。
悲鳴を上げよう掛けた口を、その手で塞がれる。
亜希は再び呼吸が荒くなり、目を泳がせた。
その異変に浜川は、そっと亜希の背中を擦る。
――ひどい怯えよう。
久保からメールで状態を大まかに聞いていたものの、亜希の状態はそれ以上に深刻に見えた。
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