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 月曜日、13時過ぎ。  万葉との待ち合わせは、駅前のホテル内に用意されたカフェだった。 「ここなら知り合いに会うなんてこと無いと思ったから。」  万葉はアイスコーヒーをブラックで頼み、亜希はアイスティーにミルク付きで頼む。  昼下がりなこともあり、美味しそうなスイーツもショーケースに並んでいたが、とてもじゃないが二人仲良くティータイムをするような雰囲気ではなかった。 「――それで、ご用件は?」 「この間も電話で言った通りよ。」  亜希は「それならわざわざ呼び出さなくてもいいじゃないか」と毒づきそうになる。 「――ヒトの婚約者にちょっかい出さないで。」 「『婚約なんてしてない』って言っていたわ。」  冷ややかな、それでいて小馬鹿にした眼差しに亜希は身震いをする。  ――恐怖ではない。  「武者震い」だ。  万葉は呆れたように溜め息をついて、それから猫目をすっと細めた。 「……あなたは彼に何をしてあげられると言うの?」  その声色は冷淡で真夏なのに、心が凍るかと思った。 「彼は一教員なんかしてる器じゃないわ。私なら、彼に出世の道を用意してあげられる。あなたみたいに足手まといじゃなくてね?」  そう言うと、わなわなと肩を震わせている亜希に、封筒を突き付けた。 「100万円あるわ。これで身を退いて。」  怒りから顔が真っ赤になる。 「……そんなの要らない。」 「いいえ、受け取って。そして、彼の前から立ち去って。」  机に置いた封筒を亜希の前へ押しやる。 「――馬鹿にしないでよ! そんなもの要らないわ!」  亜希は周りの目も憚らずに大声を出していた。 「尻軽女な癖して、妙にプライド高いのね。あげるって言ってるんだから、貰っておきなさいよ。」 「馬鹿にしないで……ッ!」  万葉はコーヒーをひと口飲んでから、せせら笑う。 「次の理事会であなたを罷免するように上申する。解雇になるんだから、貰って置いた方がいいわよ?」 「……な?!」 「――当たり前でしょ? 四月から新任の癖して欠勤し続けてるんだから。」  亜希は眉間に皺を寄せて顔をしかめる。 「それを受け取って自ら身を退くのを薦める。これは私の優しさよ?」  言葉に窮していると万葉はさらに容赦なく畳み掛ける。 「あなたも彼が自ら私を選ぶのを見たくないでしょう?」  そして、勝ち誇ったような笑みを零した。
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