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何時間、そうしていたのか亜希には分からない。
ただ目の前のミルクティーの氷が溶けて薄まっていき、水滴が垂れて、グラスの周りに水溜まりになっていく。
それがじわじわ広がり近くの封筒の縁を少し濡らすのを亜希は見ていた。
――ため息すら出ない。
泣いてしまえば、少しは楽になるかもしれないのにこんな時に限って涙もうまく出なかった。
時間だけが流れていく。
久保と過ごした日々が、夢のように思えた。
――楽しくて。
――苦しくて。
――狂おしい。
誰かに会えなくなることでこんな身を引き裂かれるような気持ちにさせられたのは17歳までの記憶では一度もない。
今さら久保が好きで仕方ない自分に気付く。
――でも、もう遅い。
(こういうのを『自業自得』って言うんだろうな……。)
万葉の言うことは正論で、亜希は何も言い返せなかった。
(貴俊さん、怒るよね……。)
真っ直ぐな性格だから、この事を知ったら、きっと彼は万葉を許さないだろう。
――でも、そんな風にはなってほしくない。
自分が隣に居なくても、久保には誰よりも幸せになって欲しい。
万葉が与える幸せを味わって、笑って過ごしてくれれば、それでいい。
そんな事を思いながら、のろのろと腕を伸ばすと、水っぽくなったミルクティーを口にする。
だけど、ちっとも美味しくなくて、グラスを置く。
泣きたいのに泣けなくて、息が詰まる。
呼吸が浅くなってしまって息苦しい。
(――自分で、決めたのに。)
久保とはもう会わないと決めたのに、心が悲鳴をあげていた。
そんな亜希の視界に男物の革靴が入ってくる。
「近くの席に座るのかな」とぼんやり思ったが、混み合っているわけでもないのに、目の前の人物は万葉が座っていた席におもむろに座った。
亜希はびくりと震える。
「そのミルクティー、美味しいの……? かなり水っぽそうだけど。」
目の前の人物の姿に息を呑む。
「……浩介、さん?」
「ああ。」
ふっと笑った高津の笑顔が優しくて、亜希は瞬きをした。
「――何で、ここに?」
「泣いてたら、攫いに来るって言っただろう?」
答えになってないと言い掛けて、言葉に詰まる。
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