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 それからしばらく亜希が泣き止むまで、高津はソファー席なのを良い事に、亜希の事をずっと抱き締めてくれていた。  さっきまで泣けなかったのが嘘みたいにボロボロ涙が出てきて止まらない。 「そこに置いておいて。」 「は、はい……。」 「あと悪いんだけど、ビニル袋に氷を入れて持ってきて貰える?」 「か、畏まりました。」  頭上から降ってくる高津の滑らかな声色を聞きながら、亜希は申し訳なさでいっぱいになった。 「――もう、平気。」  そう言っているのに高津は離してくれなくて、ウェイトレスの持ってきた氷を、ハンカチで包んで亜希の目元に押しあてる。 「冷たい……ッ。」 「――少し我慢。」  高津の冷たい指先が頬を滑ってくるから、びくりと震える。 「この後の予定、何か入ってる?」 「――ううん。」 「なら、少し付き合って欲しい事があるんだ。」 「何?」 「この間の続きをしよう。」 「え?」  腫れの引いた目元を確認してから、高津はくすりと破顔する。 「デートをしようって言ってるんだよ。」  しれっと言い放って、呆気に取られている亜希に「ちょっと電話してくるから、ここにいるように」と告げると席を外す。  亜希は気が動転して、頭の中が真っ白になった。  コーヒーカップからは、同じように白い湯気が立ち上っている。  ミルク入りのを口にすると、家で飲むインスタントコーヒーとは違って焙煎された豆の良い香りが口に広がる。  ほろ苦くて、でもどこか落ち着く味わい。 「――お待たせ。優秀な秘書に仕事を一任してきた。」 「……忙しいんじゃないの? 政治家って。」 「そこそこ、ね。……だけど、きっと亜希が思っているよりは余裕があるよ。」 「そうなの? でも、日曜討論とか見てると、侃々諤々と議論してそうじゃない?」 「それはパフォーマンスだよ。大抵は官僚同士で裏で話がまとまっているもんだ。それについては秘書の方がうまく仕事を進められる時もある。」 「……そうなんだ。」 「ああ、何が大事なのかなんてあんまり考えちゃいないし、自分の身がかわいいヒトばっかりだよ?」  阿久津を引き摺り下ろすために入った政界は、酷く膿んでいて汚職、賄賂、不正入札が世論が知らないだけで、かなり横行している。  その権力欲しさに、誰もが誰かの足を引っ張っていて、国の事なんて誰も考えちゃいない。
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