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「国会はね、欲望の坩堝だよ。まるで蠱を作るような。」 「蠱?」 「――毒虫を一つの壺に入れて殺し合わせて、最後に残った虫は蠱と呼ばれる呪具になる。」  高津はいつの間にかシニカルな笑顔を浮かべている。  ――冷たい笑み。  万葉の見せた冷たさなんて比べるまでもない。  高津のそれは殺気すら感じる。  亜希はぞくりとした寒気を感じて息を止めた。  ――黒曜石の瞳が陰る。  見つめていると、まるで地の底に引き摺りこまれるかのようだ。 「……毒虫なんて、大袈裟よ。卑下し過ぎ。」  奥歯がうまく噛み合わないままに、ぎこちない笑みを浮かべて亜希はおずおずと答える。 「……別に。それがこの国のあり方だって事だよ。強者に甘く、弱者には生きにくい。」  高津は目を細める。  まるで刃物を突き付けられたかのように微動だにできなくなる。 「――俺も毒虫だから気をつけた方がいい。」  そう言って、長い指で亜希の頬に触れる。 「ひぁ……ッ!」  触れられたら、そこだけ熱が集まるような感覚がして、亜希は真っ赤に上気した。 「なに? ……感じちゃった?」 「ち、違う!」 「なあんだ、違うの?」  くしゃりと笑った高津の笑みは、もう元の優しいものに戻っている。 「ほら、行くよ?」  高津の方が一枚も二枚も上手で、亜希は翻弄されっぱなしだった。 「ど、どこに行くの?」 「それは着いてのお楽しみ。」  伝票をすっと右手で持って、反対の手で亜希をさり気なくエスコートする。  クレジットカードで代金を支払う立ち姿まで格好よくて、亜希は高津の隣が落ち着かなかった。 「どうした?」 「……私、もうちょっと可愛い格好しておけば良かったかな。」  自動ドアを出て開口一番に言うことが、そんな他愛ない事だから、高津は肩を震わせる。 「……君は相変わらずだな。」  そして、手を引かれたまま、雑居ビルに入る。  自動ドアが開くと涼しやかな空気が包む。  顔を上げて目に飛び込んできた看板に唖然とした。 「ここって……?」  目の前の看板は、よくCMでやっている高級エステティックサロンの名前が書いてある。 「……やってもらってる間に服も見立てておく。この際、とことん可愛くなってもらうよ。」 「――ええ?!」  受付から出てきた店員に誘われ、施術室に移動するように言われる。
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