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「ほら、楽しんでおいでよ、お姫様。」
トンと背中を押されて、狼狽えたままで亜希は連れられていった。
高津が用意してくれたのは短時間デトックスのコースだ。
自分も毒虫だなんて言いながら、チョイスが解毒(デトックス)だなんて笑える。
「彼氏さんですか? 格好いいですね。」
自分と同年代のエステティシャンに言われて、曖昧に答える。
体を温めるとの事でサウナシートみたいなもので覆われた。
(……このコース、高いんだろうな。)
ぼんやりそんな事を思いながら、温かくてうとうとする。
近頃、よく眠れていなかったから余計な事を考える間もなく意識を手放した。
気が付いた時には汗をびっしょりかいていて、エステティシャンが次の工程に移る為に準備をしている姿がちらりと見える。
「次はパックとリンパのマッサージをしていきますね。」
ぼんやりする頭のままで頷くと、ひやりとしたフェイスマスクが顔を覆う。
気持ち良くて、もやもや考えていた事がどうでもよくなっていく。
「――凝ってますね。お仕事が忙しいんですか?」
「……いえ。」
「じゃあ、夜更かしですか? 寝不足だったり、緊張しっぱなしだったりすると血流やリンパの流れが悪くなるんですよ。」
「――そうですか。」
眠くて、頭の芯がぼうっとする。
(今ごろ浩介さんは何をしてるんだろう……。)
服を見立てておくからと言われたのを思い出して、ため息が零れる。
(――これってデートっていうか、『プリティ・ウーマン』な状態じゃない?)
「痛たた……。」
「少し我慢してくださーい。ここが解れると今夜はゆっくり休めますよお。」
ぐにぐにと手加減無しに揉んでいるのににこやかな態度で言われるから、亜希は顔を引きつらせる。
その後は、砂風呂に入ってフィニッシュ。
再び着ていたブラウスとデニムに身を包み、ミュールを履くと玄関ホールへと戻った。
「――お帰り。」
時計はいつの間にか一時間半ほど回っていて、高津は紙袋に囲まれて座っている。
「少しはすっきりした?」
「これ以上は搾られて、何も出ません。それより、その紙袋の山は何?」
「最後まで迷って、二パターン買ってきたんだ。どっちも似合うと思うけど、次の美容室で着替えさせて貰って決めよう?」
「……うう。」
「お洒落は大変なんだよ。」
亜希はがっくりと肩を落とした。
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