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ビルを出て駐車場まで歩く事になり、トコトコと雛鳥みたいに高津のあとを付いていく。
「お洒落してどこに行くの?」
「レストラン。」
「テーブルマナーとか分からないよ?」
「そんなに仰々しくないよ。」
後ろから来ていた人が亜希を追い越そうとする。
高津は車道側に居た亜希を引き寄せて建物側に移動させた。
「……ありがとう。」
「どういたしまして。」
一緒に歩いていると、高津も久保と同じで自分の歩調に合わせてくれているのが分かる。
でも、久保と違うのは僅かに半歩先を歩んでいて、危なくないように気遣ってくれている。
――優しいヒト。
それなのに、高津といるのは妙な緊張もある。
「マナーなんて見よう見真似だ。口に合うか分からないけど、美味しそうに口にしてる姿がみたいだけだから。」
高津がふわりと亜希の肩を抱いて引き寄せる。
今度は前から自転車が来ていた。
「俺はね、どんな一票より君の一票が欲しいんだよ。」
少しおどけた声で、高津が囁く。
高津の魔法にかかれば、灰かぶりの自分もお姫様になれるんじゃないかと錯覚を抱く。
「『もうちょっと綺麗な格好』と言わず、思いっきりおめかしして、別人になった気分を味わえばいい。」
「でも、こんなに……悪いよ。」
ふと万葉に言われた言葉を思い出して、表情を曇らせる。
『……あなたは彼に何をしてあげられると言うの?』
――貰ってばかり。
たくさん温かくなる気持ちを貰っているのに、うまく返せない。
「――亜希?」
怪訝そうな顔をした高津が、顔を覗き込んでくる。
「私、甘えてばかりだね……。」
根なし葛みたいな自分も自覚している。
亜希はぎこちない笑顔を作る。
「辛いのに、笑わなくていい……。しばらくは久保の代わりでも構わない。」
高津の言葉に肩が震える。
「――君は俺と同じだ。」
足早に駐車場まで来ると、車の陰で抱き締められる。
街の喧騒に飲み込まれそうな微かな呟き。
「俺と同じで、誰かに助けてもらいたいって泣いてる……。」
(浩介さん……?)
高津の声は震えず、涙も見せる素振りは無い。
それでも亜希には、高津が泣いている気がした。
「――君は狡い。いつだって俺を掻き乱すんだ。」
「ごめんなさい……。」
亜希がそう呟くと、高津は目を細める。
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