40人が本棚に入れています
本棚に追加
/23ページ
28
月曜日、13時過ぎ。
万葉との待ち合わせは、駅前のホテル内に用意されたカフェだった。
「ここなら知り合いに会うなんてこと無いと思ったから。」
万葉はアイスコーヒーをブラックで頼み、亜希はアイスティーにミルク付きで頼む。
昼下がりなこともあり、美味しそうなスイーツもショーケースに並んでいたが、とてもじゃないが二人仲良くティータイムをするような雰囲気ではなかった。
「――それで、ご用件は?」
「この間も電話で言った通りよ。」
亜希は「それならわざわざ呼び出さなくてもいいじゃないか」と毒づきそうになる。
「――ヒトの婚約者にちょっかい出さないで。」
「『婚約なんてしてない』って言っていたわ。」
冷ややかな、それでいて小馬鹿にした眼差しに亜希は身震いをする。
――恐怖ではない。
「武者震い」だ。
万葉は呆れたように溜め息をついて、それから猫目をすっと細めた。
「……あなたは彼に何をしてあげられると言うの?」
その声色は冷淡で真夏なのに、心が凍るかと思った。
「彼は一教員なんかしてる器じゃないわ。私なら、彼に出世の道を用意してあげられる。あなたみたいに足手まといじゃなくてね?」
そう言うと、わなわなと肩を震わせている亜希に、封筒を突き付けた。
「100万円あるわ。これで身を退いて。」
怒りから顔が真っ赤になる。
「……そんなの要らない。」
「いいえ、受け取って。そして、彼の前から立ち去って。」
机に置いた封筒を亜希の前へ押しやる。
「――馬鹿にしないでよ! そんなもの要らないわ!」
亜希は周りの目も憚らずに大声を出していた。
「尻軽女な癖して、妙にプライド高いのね。あげるって言ってるんだから、貰っておきなさいよ。」
「馬鹿にしないで……ッ!」
万葉はコーヒーをひと口飲んでから、せせら笑う。
「次の理事会であなたを罷免するように上申する。解雇になるんだから、貰って置いた方がいいわよ?」
「……な?!」
「――当たり前でしょ? 四月から新任の癖して欠勤し続けてるんだから。」
亜希は眉間に皺を寄せて顔をしかめる。
「それを受け取って自ら身を退くのを薦める。これは私の優しさよ?」
言葉に窮していると万葉はさらに容赦なく畳み掛ける。
「あなたも彼が自ら私を選ぶのを見たくないでしょう?」
そして、勝ち誇ったような笑みを零した。
最初のコメントを投稿しよう!