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 「進藤 亜希」を好きなヒト、嫌いなヒト。  誰かが「進藤 亜希」を好いてくれたとして、他の誰かは「進藤 亜希」に無関心だったり嫌ったりするのが世の中で。  しかもそれは恒常のものではなく変動していく。  こんなに親身になってくれる高津もいつか無関心になるのかと思ったら、空虚さが胸に染みた。  ――誰もが何かしら折り合いをつけて生きている。  甘えて甘やかして成り立つ関係もあれば、共に協力し合い高め合う関係もあるし、逆に足を引っ張り合って貶め合う関係もあれば、互いを無視し続ける関係もある。  それでも、何処かしらに自分を受け容れてくれる場所があるから「自分」として生きていけるんだと亜希は高津の腕に掴まりながら思った。  マンションに着き、寝室に通されると亜希は自分の部屋に帰ってきた時以上にホッとする。 「――ここ、知ってる。」 「……そう。」  頬を弛めて亜希はベッドに腰をかけると、ぽすりと枕に頭を預けた。 「帰ってきたって感じ。」  目を閉じて高津の移り香を味わうと、ゆっくりと目を開ける。  久保の与えてくれる落ち着きとは別格で、きっと揺りかごの中に収まっていたらこんな気分になるんだろう。 (……ここは優しい。)  罅(ヒビ)が無数に入ったガラスのような心を、これ以上砕かないようにここは「進藤 亜希」を受け入れてくれる。  ようやく息が吐ける。  高津は上着を脱ぎ、ネクタイを外して、寛いだ表情を見せる。  亜希はやんわり笑みを返した。 「――浩介、さん。」  亜希が手を伸ばすと、その手を愛おしそうに手にとって口付ける。 「……お帰り、亜希。」  亜希の隣に高津は座ると、優しく髪を撫でてくれる。  そんな些細な事であんなに傷付いていた心が慰められた。 「……泣きたければ、思いっきり泣いてもいいぞ?」  高津がそう言っても、亜希はかぶりを振った。 「ここにいるとね、どうでも良くなる。」  ――過去も、未来も。  ――嬉しい事も、嫌なことも。 「何だか疲れちゃった……。」  高津は片腕を枕に、もう片腕を亜希に巻き付けて、後ろから抱き締めるような格好で横になる。 「――そうか。」  亜希の髪に顔を埋めて、香りを嗅ぐ。 (亜希の匂い、だ。)  抱き締められると、衣擦れの音がした。  久保を求めるような激しさはない。
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