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 俄かに緊張感が漂い、周りの喧騒もあって、個室の中は何物も受け付けないような空気に変わる。 「お待たせしました……。」  店員が入ってきてくれなかったら、刺さるような空気に内田は窒息するかと思った。 (電話だから殴り合いはしないのが幸い……。)  内田は固唾を飲んで、久保からの電話に高津が出るのを静かに待つ。 『高津です。』 「――お世話になっています。久保です。」  第一印象から最悪で、言葉を交わす度にこんなに嫌いになる奴がいるだなんて思わなかった。  亜希を傷つけて苛む仇敵のはずなのに、いつの間にか彼女を攫っていく。  高津はいつだって対極の立場にいる。 (……いや、違うか。)  高津は恐ろしく自分に似ているのだ。  亜希を知らなかった頃の自分に。 『ちょっと電話してくる。』 『――うん。分かった。』 『すぐ戻るから。』 『うん……。』  電話越しの亜希の声に耳をそばだてる。  しばらくの間、カツ、カツと高津が移動する音が聞こえて、カツンと立ち止まる音がした。 『――それで、久保さん。私に何のご用ですか?』  高津の事務的な無機質な声色と相反するように聞こえてくる感傷的な音楽に、久保は時間や空間以外にも「隔たり」を強く感じていた。 (――住む世界が違っちゃったんだよ、か。)  消え入りそうな亜希の言った言葉が、今になってよくわかった。 『……久保さん?』  久保の長い沈黙に、高津は苛立ちの声を上げた。  内田なら高津が出ない時点「掛け直す」と言うと思ったし、亜希の声を聞けば心配しているのも幾分治まるだろうと思ったから、「電話に出ようか?」と言う亜希の申し出を断らなかった。  ――それがこのザマだ。  BGMで流れているピアノが緩やかなリズムと感傷的な音楽を奏でている。  電話を受けながら、高津は一人席に残してきた亜希が泣き出しはしないかと気が気じゃなかった。  あの電話の後、亜希は塞ぎこんでしまって、食欲も失せてしまったのか、料理に手を付けず、頻繁にお冷やを口にするだけで物思いに沈んでいる。  その姿は端から見ていても痛々しくて「すぐに戻るから」と高津は亜希に声を掛けてきたのに、用件を口にしない久保に苛立った。 『用が無いなら、切らせて頂きますよ? ……こちらも暇じゃないんでね。』  その言葉にようよう重い口を開く。  久保が口にしたのはたった一言だった。
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