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翌日、亜希が実家に連絡すると、先に久保が連絡を入れていたようで、心配はされたものの怒られる事はなかった。
「――なんか拍子抜け。」
「二十歳も過ぎているんだ。そんなもんだろ?」
「――うちの場合、違ったのよ。高校時代も門限が早かったし。」
「へえ。門限なんてあったんだ……。」
くすくす笑いながら英字の書面に目を通してる高津の近くに、コトンとコーヒーの入ったカップを置く。
「まあ、もっと意外なのは浩介さんが有名な議員さんって事だけど。」
ダイニングにある椅子に腰をおろすと亜希は高津を見つめた。
「んー?」
「――検索エンジンで調べてびっくりしたんだよ? 東大出身とか書いてあるし、キャリア官僚だったって書いてあるし。」
亜希が前と同じように自分に訊ねないで「検索エンジン」で調べてることにふっと笑みを漏らした。
「キミはどうして本人が目の前にいるのに、検索エンジンで調べるんだか……。」
「紗智に有名なんだって聞かされて……。何も知らない事が悔しかったんだもん。」
「……へえ?」
すると高津はぱさりと資料をローテーブルに置くと、亜希に流し目をする。
「そんなに俺の事知りたい?」
――艶っぽい眼差し。
高津の名前で検索した結果、政治家としての情報以外にも、かなり好き勝手に書き立てた記事もアップされてた。
――抱かれたい男。
数多いる有名人の中に、高津の名前も結構上の方にランクインしていた。
(格好良い……。)
何の縁で自分がこんなところにいるのかは分からないが、高津の立ち居振る舞いは洗練されていて、彼にとっては他愛ない所作でも亜希にとっては見惚れるだけの所作だった。
一続きになっているリビングのソファーからすくりと立ち上がり、数歩歩むと亜希のすぐ傍までやってくる。
「さてと……。」
そして、亜希の腕を掴んだかと思うと、一気に引き上げられた。
「ちょ……ッ?!」
椅子がガタンと大きな音を立てる。
「な、何?」
「んー? これは直接俺に訊ねて来なかった罰な。」
そう言うと、身体の自由を奪われていく。
――呑み込まれる。
むせ返るくらい甘いムスクの香りに包まれる。
亜希は窒息しそうなくらい、きつく抱き締められて、首筋を唇でなぞる高津の様子に身体をうち震わせた。
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