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困って俯くと、追い討ちをかけるように岳ちゃんはニヤッと笑った。
「そういう女の言うことだから、納得する。それを差し引いても、男は好きな女の言うことなら何でも聞いちまう生き物だしな」
「……」
あたしはしばらく固まって──やがて、岳ちゃんにこれ以上言うことなど何もないという結論に至り、半ばやけくそのようにまたうどんをすすり始める。
岳ちゃんはそれを見て、お腹を抱えて笑った。
そうしてひとしきり笑った後、岳ちゃんはテーブルをトントン、と軽く作った拳の先で叩いてあたしの注意を引く。
まだ動いている口元を隠しながら岳ちゃんを見ると、彼はふわ……と溶けるような笑顔を見せた。
「ハル……困ったことがあったら、何でも言えよ。その時俺にもう女がいても、一回だけなら何でも聞いてやるから」
「……そんなこと、しないもん」
「ハハ。それに越したことはないだろうけど……な?」
箸を置き、ジュースで口の中のものを飲み下す。
そして、一息ついた。
「好きになってくれて──ありがとう。本当に、嬉しかった」
ゆっくりとそう言うと、岳ちゃんはうん、と子どものように頷いた。
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