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「あのね……久遠寺菜々子ちゃんは、警察に行くべきだと思うの」
「……それは、自分も共犯だったってこと、自供するために?」
すると、陽香は静かに首を振った。
「それは、後で考えること。中居さんね、聴取に素直に応じてるから、接見もそろそろできるみたいで……ふたりは一度、会って話をするべきだって、そう思う」
「……」
「だって、久遠寺菜々子ちゃんが目を覚ました時には、中居さんが逮捕された後だったんだよ」
「お互いの真意を確認する間もなかった──ってこと?」
陽香はコクン、と頷いた。
「あたし、それを久遠寺菜々子ちゃんに勧めてあげたいんだけど……余計なお世話かな。そんなつもりで訪ねたら、帰れって言われちゃうかな……」
「……中居と久遠寺だけのことを考えたら、そりゃ会った方がいいに決まってるけど……久遠寺の父親が、許すかな」
俺は、彼が浅海さんに金を渡そうとしていることも頭に入れて考えていた。
昨日、俺に話をしにきた時は、ただの人間として──久遠寺亨個人としての態度で、そう悪い人には思えなかったけれど。
普段はそうじゃないのかも知れないと思うと、どうにも気が重くなる。
一介の高校教師が、対等にやりとりできるとも思えないからだ。
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