230人が本棚に入れています
本棚に追加
だからといってこのままにしておいていいとも思えなくて、本当に悩みどころだった。
「久遠寺菜々子ちゃんには、加賀美さんておじいさんがついてるんでしょう? なら、久遠寺さんの許可なんていらないんじゃないかな……」
「……」
飲んだそばからまた口に入れたくなるようなスープの味が見事で、俺はもう半分程飲んでしまっていた。
「ずいぶん、大胆なこと言うね」
「あたしが菜々子ちゃんだったら……って、考えてたの。ずっと」
「……」
……それを言われると。
たぶん陽香は、7年前のことが頭に浮かんだんだろう。
俺がしたことで、俺が勝手に別れを決めて切り出して──陽香は置き去りにされたような気持ちになったんだろう。
それを今の久遠寺に重ねている。実に彼女らしい感傷だと思う。
状況が違うとはいえ、似たようなものだと俺も思うから。
俺はマグカップをゆらりと揺らすと、じっと考え込んだ。
……そろそろ、頼んだことがどうにか転がってるはずなんだけどな……。
「陽香。警察に行くことって、まだあるの?」
「え? ううん、もう特にお聞きすることはないですって……何かあったら携帯か本屋の方に連絡があるとは思うけど」
「そっか」
「仁志くん?」
「うん……?」
「何、考えてるの」
それには返事をせず、俺はスープの残りを飲み干した。
.
最初のコメントを投稿しよう!