手のひらからつたわるもの。

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   プールの中に落ちて身体が冷えていたせいで傷の割に出血量は少なかったと、術後に聞いた。  ただ、ショック状態に近い症状が出ていて、そのせいで手術中に仁志くんの心臓が一度止まりかけた。  それが救急車の中で起きたなら危なかった、既に手術室での処置が始まっていたのは不幸中の幸いだった──とのことだった。  手術を終えた仁志くんを、救急病棟の看護師さんが常駐している処置室で一晩様子を見ることになり、あたしは意識のない彼に一晩付き添った。  術後に出始めた高熱のせいで朦朧としながら仁志くんがうなされているのを、祈るような気持ちでただ見守るしかできなかった。  ただ、うっすらと目を開けながら何かを探すような仁志くんの手を、泣きながら握り返す。  時々、その手があたしのものだとしっかり判っているように、仁志くんは子どものように甘える声でその名を呼びながら握り返したりする。  それだけが救いで、この雨の夜を越える支えになっていた。 .
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