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「織部さん、少し眠ってちょうだい」
肩に手を置かれ、ハッと我に返る。
仁志くんの手を握り締めたまま、一瞬意識を失っていたようだった。
振り返ると、そこには仁志くんのお母さん──成子さんが青白い顔をして立っていた。
お母さんと初めて会った時、仁志くんはまだ手術の真っ最中だった。
血圧と心拍数が下がる一方の仁志くんは、家族の到着と同意を待たず緊急手術をすることになった。
警察も絡んでいることから、血相を変えて病院に飛び込んできたお母さんは、そこら中の看護師さんを捕まえてはどういうことだ、と問い詰めていた。それを見つけ、あたしが声をかけた。
ちょうどその時、仁志くんの手術や入院に関する書類をまとめ始めていた事務員があたしのもとへやってきて、身分証明や患者との関係を訊かれた。
他人だと答えれば身分証明の確認だけして、ではお帰り下さい……と言われる空気を感じ取っていた。
彼の母親が来たんだから、尚更だ。
それは、嫌だった。せめて今夜くらいは、仁志くんのそばを離れたくないと思った。
彼がこの場にいないのにどうしたものかと考えたけど、思わず答えてしまった。
いずれ一緒になることを、彼と約束している者です──と。
目を丸くしたのは、お母さんだった。
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