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「どうして……」
「うん?」
「どうして、あたしにその話を……」
「うん……ごめんなさいね。あなたとは今夜が初対面なのに……しかも、こんな時に」
「いえ」
「どうしてかしら……理由は判らない。でも、あなたを見ていたら何だか腑に落ちたというか……」
「腑に落ちた……?」
「何かしらね。生まれのことなんて仁志が知るはずないんだけど。ああ、やっぱりこの子、どこかで寂しい思いをしていたのかしらって。それを、あなたが癒してくれてるような気がして」
ふと、仁志くんに視線を落とした。
さっきまであれだけ苦しそうにしていたのに、お母さんが来てからは小さく呻く程度で、仁志くんは言葉らしい言葉を発しなくなっている。
「お母さんが来てくれたから落ち着いたのかな」と思ったけど、違うんだろうか。
『嫌なことがあっても、絶対に自分の口から言わないの。泣きもしないし、不平をこぼすこともなくて』
お母さんの言葉を反芻しながら、渇き気味の喉で息を呑む。
……もしかして、本当にあたしにだけ甘えてたの?
お母さんは、仁志くんが自分の生まれのことを知らないと言った。
でも、無意識にご両親との間に壁を感じていたりしたんだろうか。
思っていたことは逆で、お母さんが来たから仁志くんはじっと我慢を始めているんだろうか。
高熱で朦朧としながらも、無意識に。だとしたら。
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