手のひらからつたわるもの。

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  ゚・*:.。..。.:*・゚・*:.。..。.:*・゚ 「──よっ」  病室を出るなり、そこにいた意外な人物を見て、あっと小さく声を上げる。  首に巻かれたストールを気にしながら、廊下に立っていたのは岳ちゃんだった。  岳ちゃんとは、昨日の夕方水族館で別れたきりだった。  あたしは仁志くんについて病院へ、岳ちゃんは多分警察署へ──。  岳ちゃんは困ったような笑顔を浮かべ、肩を竦める。 「……助かったってな。よかったじゃん」  すっきりとした岳ちゃんの声に、口唇を噛みしめてコクンと頷いた。  その反応を見て、岳ちゃんはすたすたとあたしのそばまで来る。 「時間、ある?」 「え……」 「少し、あんたと話がしたくて……でも、病室に入ってってイチャついてたら嫌だな、と思って……」 「そんなことできる状況じゃないでしょ」  ムッとして見せると、岳ちゃんはククク……と肩を揺らして笑う。 「判ってるって。……まだ、自力で立つこともできないんだろ。刑事さんから聞いた」 「……判った、いいよ。仁志くん、今眠ったところで……軽く何か食べようと思って、出てきたの」  俯いて低い声で答えると、岳ちゃんはほっと息をついた。 .
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