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「じゃあ、俺がおごってやるよ。その間だけでいいから」
「いいよ。自分で……」
「俺、あんたと食事さえ行かないままフラれてんだぞ」
──確かに。
岳ちゃんに対して、曖昧な態度を見せてしまったことを思い返し、口唇を尖らせた。
それでも岳ちゃんは、あたしの気持ちを口にする前に察し、汲み取った上でおとなしく引き下がろうとしたんだ。
その話さえ中途半端なまま事件は進行して──そして、仁志くんが刺されて、事件は終わった。
「……判った。あたしがごはん食べる間だけ」
反芻するようにそう言うと、岳ちゃんは「それで充分」と明るく頷いた。
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