手のひらからつたわるもの。

12/21
前へ
/33ページ
次へ
  ゚・*:.。..。.:*・゚・*:.。..。.:*・゚  病院の正面玄関と連なるようにして、いくつかの施設があった。  薬局はもちろんのこと、軽食レストランや簡易化されたコンビニ。  あたしと岳ちゃんは、その中の和食屋ののれんをくぐった。  店に入った瞬間漂う出汁のいい香りにつられて、きつねうどんを注文する。  岳ちゃんはもう少しボリュームあるもの食え……と薦めてくれたけど、それ以上のものを口にする程の食欲はなかった。  岳ちゃんは無理やり注文したコーラで口を湿らせながら、ふと口を開いた。 「正直、あそこでハルのこと諦める気はなかったんだ、俺」  カラン……と、岳ちゃんの手のグラスの中の氷が弾ける。  顔を上げると、真剣な岳ちゃんの瞳が真っすぐにあたしを見ている。  その射るような視線に、息を呑んだ。  すると、あたしを緊張させるだけさせておいて、岳ちゃんはクク……と喉の奥でくぐもった笑いを漏らす。 「“なかった”……だからな」  岳ちゃんの、意地悪く吊り上げられた口唇の端。  それで一瞬だけ騙されたことに気付いた。ぷいとそっぽを向いてやると、今度はクスクスと肩を揺らして笑う。 「怒んなって。その顔、可愛くてけっこう好きだけど」 「な……っ」 .
/33ページ

最初のコメントを投稿しよう!

230人が本棚に入れています
本棚に追加