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驚いてまた岳ちゃんの顔を見ると、彼はテーブルに肘をついて頬杖をつきながら嬉しそうにあたしを見ていた。
別の人のことが好きなあたしのことを、岳ちゃんは想ってくれている。
そして、無理に自分のものにしようなどと彼が思っていない分だけ、あたしは勝てない。
「いや、諦めるつもりがなかったのはホントだよ。男としての俺をよく見もしないうちからフラれるとか、冗談じゃないって思ってたし」
「……岳ちゃん」
「でも、さすがにあんなもの見せ付けられたらね。さすがに“勝てねーわ”って思って」
「あんなもの、って?」
すると、眼鏡の奥の岳ちゃんの涼やかな瞳がもう一度持ち上がった。
「あんた、あの時水槽に飛び込んだだろ」
「え……? あ、うん……」
脳裏に、あの瞬間のことが甦る。
腹部を刺された仁志くんを追うように、あたしも飛び込んだ。
騙されていたとはいえ、ピラニアの水槽だと思い込まされていたというのに。
けれど、こうして後から思い出しても、ちっともぞっとしない。
それは、あたしのどの瞬間を切り取っても同じことをしたに違いないからだ。
冷静でいようと狼狽していようと、あたしは仁志くんを追って水槽に飛び込むことを選んでいた。
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