230人が本棚に入れています
本棚に追加
すると、岳ちゃんはばつの悪そうな笑顔を見せ──そして、俯いた。
彼の指先が弄ぶストローが止まり、遅れて氷がカラカラン……とぶつかり合って止まる。
「無理だったよ、俺には」
「え?」
「あんた、あの男を助けようと思って飛び込んだんだろ? 俺も一瞬ハルの後を追おうとしたんだけど……できなかった。情けない話だけど」
「──……」
そのままあたしのことを見ようとしない岳ちゃんを見ながら、静かにかぶりを振った。
「岳ちゃん」
「……ん」
「岳ちゃん、こっちを見て」
のろり……と、岳ちゃんは億劫そうに顔を上げる。
それでもまだ目と目が合わないことに焦れて、あたしは彼の顔を覗き込んだ。
「情けなくなんてないよ」
「ハッ、慰めてくれなくていいって……余計情けないから」
「そんなことないよ……勝ちとか負けとか、そんなことで量っちゃだめ。その……岳ちゃんがあたしを想ってくれた気持ちが、本当に恋だった……っていうのなら」
「……ハル?」
ようやく、岳ちゃんの瞳があたしを見た。
ふっと小さく笑い、テーブルに視線を落とす。
「正直に、言うね」
手元のグラスに少しずつ水滴がついていくのを見ながら、ぽつりぽつりと話し始めた。
.
最初のコメントを投稿しよう!