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「岳ちゃんと会って……親しい感じになってって。ドキッとした瞬間は、いっぱいあったんだ」
岳ちゃんは、片時もあたしから視線を外すまいとするように、無言で小さく頷いた。
「仁志くんのことがあたしの人生になかったら、あたし、岳ちゃんに惹かれて止まらなかったと思うよ。慰めでも気休めでも、何でもない。あたし多分、ちょっと強引で優しい男の人が好きなんだと思うし」
「……まあ、優しいかどうかは知らないけど、ちょっと強引なのは認めるよ」
コーラのストローに口をつけ、その中にブクン、と空気を吹き込んで泡を作りながら岳ちゃんはぼやくようにそう答えた。
それを見ながら、苦笑する。
「……でもね、あたしの中にはもう、彼が……仁志くんがいて。どーんって、心の真ん中に居座ってるんだと思う」
「真ん中、ね……」
「そう。彼と駄目になったのは、あたしがまだ高校生の時で……それから何年も、心の真ん中から押し出そうとしたの。もういい加減出て行って、あたしの人生まで関わってこないで……って」
「それが、見合いという見合いだけでなく、男そのものを受け入れないようにしてた原因?」
「うん。その間に、もう忘れた……って思った瞬間も、何度もあったんだよ。でも、駄目。ふとした瞬間、透明になりかけていたはずの気持ちに輪郭が現れたみたいに、あたしの中にクッキリ焼き付いて、もうどうしようもないって思い知るの」
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