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「あいつでなきゃ駄目だ、って。そういうこと」
「……うん。仁志くんでなきゃ、駄目なの。あの人が、好きなの。嘘をつかれても、裏切られても、そばにいられるなら……笑顔で目を覗き込んでくれるなら……あたしきっと、何でも許してしまう」
あたしが、ものを数える時のように確かにひとつひとつ言葉を紡いでいくのを見ながら、岳ちゃんはへにゃっと眉尻を下げた。
「それ……惚れてる分、ハルの方が損してない?」
「損?」
訊き返すと、岳ちゃんはその言葉の意味以上に含んだことなど言っていない、とでも言うように無言で軽くうんうんと頷いた。
「損なんて……考えたことない」
「でも、ハルのその気持ちをあいつが利用することだってできるんだぞ? きみが一番だ、なんて言ってイイコイイコしてやりゃ、この女は何でもいいんだ、みたいな」
「仁志くんは、そんな人じゃないよ」
「女はみんな、そう言うんだよ。自分の男だけは、自分を裏切ったりしないって、そう思ってる」
「そうじゃなくて……」
月並みな返事をしようとして、ぐっと息を詰めた。
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