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とっくに陽が暮れてしまっていて、病室内は少し肌寒いような気がしてたけど、今の陽香のひと声で身体に熱がこもる。
彼女を両腕でちゃんと抱けないことだけが残念だ。
「陽香……」
「な、に……」
陽香の右手が、俺の肩にすがるように伸ばされた。
「あのね、俺、何も言わないから」
「え……?」
「陽香が、病院の人や母さんに宣言しちゃったことについて」
「あ……」
少し、がっかりしたような陽香の声。
話はそこで終わりじゃないよ……と言うように、ゆっくりと進めていく。
「陽香のこと、ちゃんと抱けるようになったら言う。だから、それについてはもう何も考えなくていい」
「仁志く……」
あ、と陽香は肩に力を入れて俯いた。
彼女を傷付けてしまわないように慎重にそうしていると、瞬間、するっと許された。
「……!」
声にならない陽香の吐息。
俺も、その瞬間溜め息をついた。
陽香が位置をずらして座ったおかげで、俺の手はかなり自由になった。
「……いいね」
陽香の今の格好のことも含めてぼそっと呟くと、彼女はぎゅっと口唇を噛んでかぶりを振った。
「あ、あたしじゃない……!」
「へえ。じゃあ誰がやったの」
思わず、笑い出しそうになってしまった。
悪戯したことが既に明らかになっているのに、それを認めない子どものようだ。
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