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岳ちゃんは鳩が豆鉄砲を食ったような顔のまま、額の生え際を指先で軽く掻いた。
「ごめんなさい、そんな女、ダッチみたいで嫌です」
……ダッチって。
テーブルを見ながら、岳ちゃんはとりあえずそういう女性といる自分を想像したようで、うんざりとした顔をした。
岳ちゃんの卑猥な比喩はどうかと思うけど、とりあえずほっと胸を撫で下ろす。
一瞬でもいい。
岳ちゃんの虚を突いて、彼の筋書きを狂わせられれば、このやりとりはあたしの言い分で終わる。
「でしょう? 仁志くんだって、そういう女の子選ぶわけないもん。そんな人だったら、あたしが好きになんてなるわけないじゃない? ……だったら、岳ちゃんだって……」
ひと回りして戻ってきたあたしの言葉に、岳ちゃんはクッと声を殺して笑い出した。
「……参った。その通りデスネ、はい」
話がひと段落ついたところで、店員さんがきつねうどんを運んできた。
岳ちゃんは箸箱から割り箸をひとつ取って差し出す。
「びっくりした。まさかそんな方向から来るとは思わなかった。……ハイ、とりあえず食えよ」
「……ありがと。いただきます……」
その割り箸を受け取り、パチンと割った。
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