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「別に、奇をてらったわけじゃないよ。言いたいことの正しい伝え方を、ハッて思いついただけ……」
そう言って、うどんを少しずつすすって食べ始める。
岳ちゃんは相変わらずコーラの中のストローをかき回しながら頬杖をついていた。
「ん。論点全然ズレてなかった。さすが織部克行の妹」
「それは関係ないよ……」
「いや、大有りだよ」
岳ちゃんはコーラをストローでチュッと吸い上げ、微妙な顔をする。
「周りの人間関係に恵まれてる。それだけで上等な人間は割とうまく勝手に育つ──と、俺は思う」
「周りの人間関係……?」
「中居弘毅と貴恵のこと、思い出してみろよ。あいつらに親の影がないこと、変に思わなかったか」
「……あ」
「あいつらの家は、中居の父方のばあさんの家だったらしい。母親は貴恵を産んでしばらくして行方知れずになった。父親の方も、弘毅が中学を卒業した頃病気で死んだらしい。だから中居は働きながら必死に高校を出たんだよ」
「……そうだったんだ」
「兄妹、ずっと二人きりだったんだ。自分のために汗だくんなって働く兄貴の姿に──貴恵がおかしな気持ちを抱いても、仕方なかったのかも知れない。大人の保護者なんて、名ばかりの親戚しかないようなもんだったから」
思わず言葉を失った。
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