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そういえばこの人、昨日はあれから一度も顔を見せなかったんだっけ。
久遠寺さんと会ったはずだけど、それはどうなったんだろう。
俺の視線に気付き、浅海さんはきょとんとする。
「? なに」
「昨日、会ったんですよね。どうなりました?」
「……あー……」
俺が切り出すと、浅海さんは眉尻を下げた。
そのいたたまれなさそうな表情で、芳しくなかったんだと即座に悟る。
「愛美と付き合ってる、って話どころじゃなかったよ……」
「……やっぱり。第一、謝りに来たんでしょう」
「それもあるけど」
俺達が久遠寺のことを誰にも話していないおかげで、彼女が罪に問われるということはたぶん今のところない。
だから、今久遠寺がどうしているかなんてこと、俺達にはさっぱり判らない。
「とりあえず、愛美と同じ学校に菜々子を置いておくわけにはいかないから、転校させるって言ってた」
「……まあ、でしょうね」
それはそうだ。たぶん、元のお嬢様学校に戻るのだろう。
「それからさ」
「?」
浅海さんは急に渋い顔をして、ジャージのポケットから紙切れを取り出した。
「何です、それ」
「お前、判って訊いてるだろ」
「……」
浅海さんがヒラヒラとその紙切れを取り出した時点で、察しはついていた。
銀行の名前と、久遠寺さんの名前がチラッと見えた。
使ったことはなくたって、この年齢になれば見たことくらいはあるものだ。
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