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「お伺いするのが遅くなってしまって、ごめんなさい……」
「いや……」
この娘と話すのに、ベッドにいるという状況が落ち着かなくて、俺は彼女を5階のテラスに誘った。
陽香には怒られるんだけど、俺は相変わらず煙草を持ち込んでいる。
据え置かれた灰皿に、とんとん……と灰を落としながら、俺は隣に腰を下ろす久遠寺を見た。
「……今日はひとり?」
久遠寺は、コクンと無言で頷いた。
海棠に転校してきた時の彼女は、いつも不敵な微笑みを携えていた。大人のはずのこっちが気圧されてしまう程。
が、今の久遠寺はどうだ。
髪はちゃんと巻いているし、お嬢さんらしい薄いメイクも施されていて、その美少女っぷりは変わらない。
けれど、水を失って萎れてしまった花のようだ……と思ってしまう。
その原因に心当たりがないわけではなかったけど、俺はあえて黙っていた。
真冬そのものの灰色がかった空を眺めながら、俺はふうっと煙を吐き出す。
「……弘ちゃんが、何も話してくれなくて……」
「……よく、面会に行けたね」
「加賀美さん、父や母をごまかしてくれて……それで、やっと……」
……どうやらあの加賀美さんは、久遠寺の家でよほどの信頼を得ているらしい。
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