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「きみは、どうするつもりなの」
「……え?」
「俺や水族館があまり大事にしなくていいと言ったって、弘毅は少なくとも傷害で立件される。事実だけは曲げられないからね。でも事態が事態だし、殺人未遂が見送られたところで──たぶん、執行猶予では済まないはずだよ」
「刑務所行き──ってこと?」
「そう」
久遠寺は、スカートの上でぎゅっと手を握り締める。
「やだ……そんなの、やだ……」
「……ならきみは、どうしてひとり、自由でいるの」
「!?」
「まあ、たぶんきみが逮捕されるようなことはないはずだけど……本当に弘毅といたいなら、どうしておとなしくしてるの」
久遠寺は俺をじっと見上げた。
その瞳が強い感情をまま映していて、どうしても俺に何か言いたいことがあるのだと窺える。
女の子としての魅力を充分に蓄えたその口唇が、ふるりと震えた。
久遠寺の白く細い指先が、その丸い頬にそっと添えられる。
「……父に、生まれて初めて、ぶたれて……それで、怖くなってしまって……」
「……あの人、ぶったの? きみのことを?」
久遠寺は震えを隠すように頷いた。
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