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陽香の過保護は相変わらずで、俺は思わずクスッと笑った。
人が増えてきたので、妨げにならないようロフストランドクラッチをベンチにぴたりと立てかけた。
もう数日で退院だと担当の先生が言っていた。
入院生活にも慣れたけれど、正直退屈すぎることがどうにもならないので早くそうしたい。
……この間、陽香とイチャイチャしてたら涼太と朱音ちゃんに見られてしまったし。
やっぱり場所が悪い……と陽香に色々するのを控えているところだ。
常識的に考えて俺の方が激しく間違っているのは判っているんだけど。
ゴホン、と咳払いをすると陽香が首を傾げて俺を見た。
「どうしたの?」
「……何でもない」
そう? と特に気にする様子もなく、陽香はまた夜空を見上げた。
厚めの雲が風に流されていく合間に、大きな満月がちらちらと姿を覗かせる。
携帯で月食のリアルタイム速報を見てみると、天体望遠鏡で観察している人達はもう欠けていく月を確認しているようだ。
「俺達でも目視できるようになるまで、もう少しかかるのかな」
「もう欠け始めてるの?」
「うん、じわじわ左の方から始まってるってさ」
「ううん……まだ、よく判らないね」
月の欠けていく様子を必死に見ようと目を細める陽香。
一瞬その顎から首筋にかけてのラインに見とれてしまってから、俺は何事もなかったかのように視線をそらした。
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