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「お腹、空いてない? 何か買ってこようか……」
「んー……後でいいや。コンビニ、近いし」
「後で、って……えっ」
陽香が振り返るより先に、俺は背中から彼女を抱きしめた。
ビクッとしてそのまま動きを止めた陽香は、呼吸も一緒に止めてしまっている。
俺はそのうなじに顔を埋めながら、ハア……と深い溜め息をついた。
……陽香の匂い。
深呼吸をするようにそれを味わってから、はたとさっきの変な手紙のことを思い出し、“俺はあんな変態じゃない”と自分に言い聞かせた。
そうして精神統一をはかっているさなか、陽香が小さく身じろぎする。
「あ、あの……仁志くん、今眠ってたでしょ」
「ああ、うん……」
「一瞬、びっくりした。倒れてるのかと思って」
「はは……ごめん。ちょっと、しんどくて。カーペットがあったかいから、そのまま寝ちゃったみたいだ」
「大丈夫?」
心配そうな声でそう言いながら、陽香は振り返ろうとする。
けれど俺はぎゅっと彼女の身体を抱きしめることでその動きを止めた。
「大丈夫だよ」
「でも……」
「……変な感じ」
「……?」
ぽつんと呟いた俺の言葉に、陽香がわずかに首を傾げた。
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