そのくちびるから伝わるもの。

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  「さすがに、一度じゃ無理だったみたいで。とりあえず生地を傷めないように、これ以上はもう無理だっていうくらい落として下さいって……無茶だけど、そう頼んだの」 「……」 「そうしたら、綺麗になったよ。新品同様、ってわけには行かないけど……ナイフの切り目も、ワッペン縫い付けてもらったし、学校で羽織るくらいなら、大丈夫なんじゃないかな」 「……ありがとう……」  目を丸くしていると、陽香は「どうしたの?」と首を傾げる。 「嬉しくなかった?」 「いや……嬉しいよ。嬉しいけど、なんで……」 「ん? だって、大事に着てくれたんでしょう?」 「そうだけど……」  鼻先が今にも触れ合いそうな距離のまま、陽香はくすくすと笑う。 「思った通り、すっごく似合ってた。あたしも、もう少し着てて欲しいなって思って、だから……」  陽香がそれを言い終わらないうちに、俺は彼女の口唇をもう一度塞いでいた。 .
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