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だから、俺が昔中居貴恵のことを相談した──俺達のことを多少なりとも把握している、あのお人よしの弁護士さんに頼んだ方がいいと思った。
あの人なら、言葉少なな中居の気持ちを汲んでくれるはずだから。
「たまたま、そういうつてがあっただけだよ。刑事事件はただでさえ起訴までそう時間がないって言うし、外からできることも限られてるから……」
「でも……」
陽香はそれでも不満そうにしている。
じっくり相談する時間があったなら、俺だって陽香に話していた。
だけど陽香にも聴取や仕事があったし、加えて痴漢事件の聴取のこともあったし、彼女自身もいっぱいいっぱいだろうと思ったから。
……まあ、その原因はもれなく俺が作ったものだけど。
「ごめん。話すより陽香とゆっくりしたかったんだ」
「そういう言い方、狡い……」
狡い、という言葉にまた苦笑した。
陽香が怒っているわけではないことは、俺にも判っている。
その心の中を想像した時、俺のことを把握していたくて仕方ないのかな……と自惚れながらそう思った。
もしそうなら嬉しいとか思ってしまう俺は、ちょっと危ないところまで足を踏み入れてしまっているのかも知れない。
でも、どうせ恋なら、そこまで行ってしまった方がいい気がする。
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