そのくちびるから伝わるもの。

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   一般的に考えて、何もかもを恋人との間で共有することが必ずしもいいとは限らないと思われていることくらい、俺だって知っているけど。  一般的に思われていることがふたりに相応しいかたちでないのなら、そこに迎合する必要なんてまったくなくて。  他人が眉をひそめることだって、別に構いやしないんだ。  それがふたりのルールで、それが心地よく感じることで、ふたりでいるための努力のかたちであるのなら。  ただ、それが許されるふたりである必要があるとは思うけど。  そうは言っても、自分の気持ちとの兼ね合いがある場合は──やっぱり自分が折れるべきなんだろうな、と思った。 「……あまりね、思い出させたくなかったから」  俺がぽつりと口にすると、陽香は「え」と動きを止めた。  動く時に引き攣れるような感じはあるものの、傷は確実に治ってきている。  それをガーゼ越しに軽く撫でながら、俺は苦笑した。 「だって、なんか嫌じゃないか。刺されて水槽に落ちたこと、いちいち思い出させるのも」 「……それは……」 「まあ、病院に来てくれてる時点で嫌でも思い出すんだろうけど」 「それは、そうだよ」  陽香はふいに瞳を潤ませ、手袋越しに俺の手をぎゅっと握った。  こんなところで泣かせるつもりはなかった。だから、慌てて陽香の肩を抱き寄せる。  傍からは、日本で観測できる今世紀最大の月食にロマンを感じて高まっているカップルにしか見えないだろうから、それでいい。勝手に目をそらしてくれる。 .
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