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時折雲の影になって姿を消す月は、滅多に見せない奇怪な姿を見ないで……と言っているようだった。
そこで、俺は思ったままをぽつりと口にする。
「……月って、女の子だよね。多分」
「え?」
「だって、ほら。今日みたいな特別でない日だって、真っ暗な夜空にぽっかり浮かんで、ひとりやけに輝いて、色っぽくて──」
何かに浮かされたようにそう言うと、俺の顔の下で陽香はクスクスと笑った。
「え、何?」
「ううん……別に」
「何。言いなよ」
すると陽香は、月明かりだけのこの暗がりでも判るくらいにぽ……と頬を染めた。
「何ていうのかな……そう感じるのって、仁志くんの感覚がそういうのに敏感だからだと思うよ、やっぱり」
「……俺がスケベだって言いたいの」
若干ショックを受けながら落ち込み気味の声でそう言うと、陽香はまた笑った。
「外れてはいないけど、そうじゃなくて。仁志くんのそういう感性、大好きだし」
さらっと言ってくれる。
そう明るくすんなり褒められてしまうと、途端に恥ずかしくなる。スケベ心でそう思って口にしたことじゃないから、余計に。
こういう褒められ方をされるくらいなら、何でもやらしいふうにしか考えてないんでしょう……とからかい半分に言われる方がだいぶましだ。
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