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拝啓
おだやかな小春日和が続いております。ご家族の皆様にはますますご清祥のことと存じます。
先日織部さんが出版された“粘膜感染”を読ませていただきました。
すごく、心に重くのしかかりました。
織部さんが僕に言わんとすることは、判ります。
僕も、2年前のことは後悔しか残っていません。
なぜ、陽香さんを裏切って傷付けてしまったのかと、悔やんで仕方ありません。
今でも、彼女が許してくれるのなら、会いたいです。もう一度向き合って欲しいと謝りたいです。
けれど、今の僕にはできません。
2年前のあの時、死なせてしまった友人と、残された彼の恋人のためにやるべきことがあると、気付いてしまいました。
他の女性と関わりを持たなくてはならない自分が、陽香さんの前へ現れるわけにはいきません。
その問題が解決したら、陽香さんを訪ねるために織部さんに連絡をさせていただいてもよろしいでしょうか。
5年、10年かかることかも知れません。ひょっとしたら、もっと長くかかることなのかも知れません。
なので、必ずという約束はできません。待っていて欲しいと伝えて欲しいとも言えません。
僕が織部さんに連絡した時、陽香さんが誰かと幸せになっていたら、それはそれで仕方ありません。
陽香さんを困らせる前に、彼女の幸せを願って自分から立ち去ることにします。
もしその場合は、この手紙も僕の想いも、なかったことにしていただけると幸いです。
織部さんの思いを受け取ったこと、どうしてもお伝えしたくてペンを取りました。
この手紙のことは、織部さんの胸に留めていただけると幸いです。
ご挨拶に伺うという約束を違えたまま、ずるずると今になってしまい、加えてこんな勝手なお願いをしてしまって申し訳ありませんでした。
いつかまた、お会いできることを僕自身、心から願っております。
敬具
坂田仁志
織部克行様
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