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「うん。引っ越しだからね」
の声を聞いてハッとした。
そう言えば、彼が私の隣の部屋に越して来た時も、緑のたぬきを持って来たっけ。
って事は……。
気が付けば、緑のカップは池上くんを取り囲むように床に敷き詰められていた。
「ねぇ、もしかしてこのダンボールって……全部緑のたぬきなの?」
私が探るようにそう訪ねると、
「違うよ」
と言って顔を上げ、カップを取り出す手をピタリと止めた。
その答えを聞き、一瞬ホッとしたのも束の間。
「どん兵衛もあるよ。だって好みがあるでしょ。羽子ちゃんはどっち派?」
そう言いながら、今度は別のダンボールから山のような赤のカップを取り出し始めた。
「嘘でしょ……」
と呟いた私の声は、きっと彼には聞こえていないだろう。
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