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夕焼けがオフィス街のビルをオレンジ色に染め、店内には、静かにサックスの調べが流れている。
「私も夫も義(おとうさ)父母(んたち)の気持ちを尊重して、できることはやってあげたい。でもどうやってその話を切り出したらいいのか判らなくて」
ミイは率直な気持ちをワイにぶつけた。
「このようなものをご存知ですか」
ワイは、かばんから一冊のバインダーノートを取り出してテーブルの上に置いて、ミイにうながした。
表紙には「プランニングノート~成年後見制度を最大限に利用するために~」と書いてある。
ミイはそれを手に取り、背もたれに体をあずけながらゆっくりとページをめくる。
ワイはそんな様子を見ながら話を続けた。
「そのノートは、意思がまだはっきりしているうちに、年を取って十分な意思決定ができなくなったときに備えて、自分の気持ちを書き残しておくものです。」
ミイは浅く座り直し、少しだけ身を乗り出した。ワイの話は続く。
「成年後見制度を利用するかしないかは別にしても、どうして欲しいのか、身の回りのことをやってくれる人に向けて、希望を書き残しておくと便利です。お義母さんに話をするきっかけ作りに利用されてはどうでしょうか。」
「人間関係や生活習慣なんかを書くのね」
ミイは4ページと6ページを行ったり来たりさせ、交互に見ながら聞いた。
「いくら身内といっても誰とどんな付き合いをしているのかわかるわけではありません。ましてや一見親しそうにしていても、実は良く思っていないなんてこともあると思います」
「人間関係もそうだけど、財産のことを書くのも抵抗があるんじゃないかしら」
「もちろん、あると思います。ましてやこのノートは遺言にはなりません。なので、あくまでも心の整理として使ってもらえれば良いので。」
「なるほどね。いくら身内でも知られたくないことあるものね」
「そうなんです。財産について、すでに決めていることがあれば、公正証書などを作ることをお奨めします」
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