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ゆり子の場合ー
春先に差し掛かるころ。
私は仕事を失っていた。
相変わらず、カナは仕事をしない。
カナとの仲は最悪だった。
借金が嵩み、身動きが取れない。
私は夜の時代のつてをたどり、再び夜の仕事をすることにした。
ギャバを始める。
しかし、私はお酒が飲めないのだ。
無理して飲んでも目がまわってしまう。
そうなると接客どころじゃなくなる。
「ゆりちゃんお酒飲まないんだね~」
「ううん。違うの。もう酔ってるから。もう貴方に酔ってるから。」
ギャバはそれなりに稼げた。
だけど、上まで上り詰めるのは難しいと思った。
もともと童顔な私はギャバ嬢のような派手な格好が似合わない。
それに、何よりも、同僚に合わせていくのが辛かった。
会話も合わせるというだけで、後になってみて虚しくなるだけだった。
嘘を吐くことには何の抵抗もない。
相手に合わせることの方がいい。
それよりも本当の自分を知られたくない。
相手に合わせ、相手にとって都合の良い、私を演出する方がいい。
それで相手も納得してくれる。
そうせそんなに深い付き合いにはならないだろう。
「ゆりちゃんは話を合わせるのは上手いね~」
「そんなことないですよ。話聞くの好きなんです。もっと聞かせてください」
そう言うと上機嫌で話し出す客。
それで決められた時間はあっという間に経つ。
同僚の機嫌を取って、お客さんには合わせて。
私は何をやってるのだろう。
会話するのって疲れるな。
私はそう思うようになった。
でもそんな日々を続けるうちに、
どれが本当の自分かってことが分からなくなった。
私は考えるのをやめた。
自分を見失う?
違う。
元々の自分なんて無かったの。
私はキャバを辞め、風俗で働くことにした。
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