神罰の声は高らかに

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五指を揺らしさようならと手を振る行為、それが友好の証とは思わず拒絶を示しているのを理解しているティアナだがあえてもう一歩踏み込む。 「自分、あの頃の方が可愛かったで」  ティアナの一言にユーリスはきょとんとした顔をして、次第に肩を揺らし声を出して笑い始める。何がそんなに可笑しかったのか、ただ只管に笑い続けると浮かんだ涙を拭いとった。 「えぇ、そうでしょうね。でも残念なことに今の私の方を今の私が気に入ってしまったの、とても残念なことに、ね。とても優しい軍人さん、ありがとう。凄く貴女の事が嫌いになれそうよ」 「あぁもう好きにせいや! こっちも腹立つわ、またなんかあったら連絡してな。今度は無茶じゃない奴をな」 「無理よ、私が動くってことは無茶なお願いに決まっているの。今回だって勇者の命がかかっているのだから」  お互い僅かに顔を顰め、別れの言葉をかわし、踵を返すかと思う頃に自然とオルカは二人の視界に入る。 「ねっねぇ! 今の! 今の話! 本当!?」  オルカは胸に抱いたお酒を強く握りながらどちらにも問いかけた。血の匂いが既に充満し、ここだと告げているようだったのだ。  焦るオルカにティアナは言葉を無くし、ユーリスが頷く。 「えぇ、そうね。個人的には死ぬと思ってる。けど頭の硬い娘らは話を真剣に聞いてくれないのよ、想像の域を出ない与太話というのは信頼を置けないものだからね」 「ユーリス、さん? 貴女から、カオルの血の匂いがするの。凄く濃くてべっとり全身に塗りたくられているような、ありえないくらいの血の匂い。これ、何? 今もどんどん濃くなってる」  根源に近しい、もっともそれに近い匂い。それを嗅ぎ取るオルカの嗅覚はまるで血の池に沈みきっているような匂いを放つユーリスに戸惑うのだ。普通なら致死量でもこんなに濃い匂いはしないのだ、それなのにそれ以上の強烈な血の匂い。  それが風に運ばれてくるほどに濃くなっているのだ。
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