神罰の声は高らかに

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「この服は嫌い、ノエル・ノーリーンのくれたパジャマとワンピースが好き。このヒールも嫌い、動き辛いから裸足が良い」  ベッドから降りて姿見で確認するパトリシアはそう愚痴を零す。 「そんなことない、似合ってるよ神子様」  ようやく向き直ったスヴェンは白い歯を見せながら笑い、純粋な笑顔でパトリシアの姿を褒める。パトリシアがノエルへと視線を送れば頷かれ、鏡の中の自分を再び見直した。  金髪の髪は長く眠そうな、というより無表情な顔は口と目以外は動く気が無いようにその位置を違えず、法衣はパトリシアの為に作られたオーダーメイドでなるべく軽く、それでいながら荘厳な造り。  ヒールも希少な鉱石から造られた透明感ある代物でパトリシアの足に丁度嵌る。ワンピースを少し長くしたような服は動き易さと豪華さを共存させた結果。  パトリシアは二人に褒められたのは悪い気がせず嬉しさが満ちてくるが、それでも嫌な感情は消せなかった。  これを着る日には必ず誰かが不幸になる日なのだ。それは絶対、神が定めた運命のように誰かが泣く日。  荘厳な雰囲気の中で告げられる神託、それにともなる神罰、そこから始まる不幸の連鎖、悲痛な声は人々の神罰を求める声に掻き消され困惑する表情は人の囲いですぐに見えなくなる。  神罰、罪には神からの裁きが下るのだ。その場には神子たるパトリシアは必ず同席する。それが神子の役割であり、仕事。神託を受け真か偽か判別するのが神の右手であるノエル・ノーリーンと神の左手であるスヴェン・ルーペルト。  だからこそ、人が必ず不幸になるこの服がパトリシアは嫌いだった。何よりもノエルとスヴェンの暗い顔が思い起こされてしまうから。 「やっぱり、嫌い」  鏡に触れて、法衣を隠すようにすればノエルとスヴェンは息を止め、声が出なくなる。幼い子供がやることではなく、大人に任せればいい。  だがパトリシアは一度も休まず出席する。それが神子の役目だから、と。いつもの無表情だが感情は確かにあって、好きとか嫌いといった感情があり、それを口にできる。
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