神罰の声は高らかに

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 それを判断しながら行動するという行為にノエルとスヴェンは胸が締め付けられるのだ。 「二人に、お願いがあるの」 「何なりと」 「神子様の為になるならなんでもするぜ?」  くるっと鏡から二人へと体の向きを変え、珍しくパトリシアがお願いを口にした。我儘は無く、反抗期も未だに来ないパトリシアは何かを求めるというのが少ない。  だからこそ二人はパトリシアの意向に応えたい、それが二人の存在意義であり使命、それからパトリシアにできる恩返しだった。  硬くなっていた表情を解きほぐし笑顔で受け答えすれば言葉が発せられる。 「……上手く、言えないのだけど。少しでも危ない、そう感じたら一切の迷いを捨てて逃げて」  それは不確定な言葉だった。普通の人間が発する曖昧で信憑性に欠ける頷くには躊躇する当たり外れのある中途半端な占いみたいなものだ。  人はそれを感や占い、何らかの知らせ、そういった第六感付近に位置する何かだと漠然と思う。 「今、なんと仰いましたかパトリシア?」  それが普通、普通の出来事なのだ。明日の天気は? と聞かれて、多分雨じゃないかな、と答えるような曖昧な言葉。責任も一切無い軽口で流せてしまう他愛の無い受け答えで終わる一幕。  そうなるはずなのにノエルとスヴェンは信じられないものを見るようにパトリシアへと視線を向けているのだ。返すのは陳腐な返事ではなく、今の言葉がなんだったのかという確認。  耳に入り頭で理解しても追いつかない現象を前に、二人はもう一度乞う。 「自らの危険を少しでも感じたら、絶対に逃げて。そう言ったの、できる?」  もう一度、同じような言葉が帰ってくる。  こんなのは今の今まで無かった、不確かな言葉というのはパトリシアには無かったのだ。夢という現実を見据えてきた彼女にとって口にするのは確かな未来と現実、決して不確かな情報は喋らなかった。
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