神罰の声は高らかに

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「ダメ、逃げて。全部が真っ黒に塗りつぶされちゃう……嫌なの、もう大切な誰かが死ぬのは、嫌。お願い、スヴェン・ルーペルト言うこと聞いて」 「パトリシア……わかったよ、約束だ」 「本当?」 「本当だ。約束は守る。パトリシアのお願いは久しぶりだからな」  約束。パトリシアが小さな小指を差し出せばスヴェンもそれに倣って無骨な小指を絡ませ約束のおまじないを済ませばパトリシアの顔が少し柔らかくなった気がした。  もう一度パトリシアの頭を撫でるスヴェンにノエルは微笑みながら時間が迫っていることを申告する。 「ジョゼフ様にもこの事は伝えてある。予定は変わらない、と。スヴェン・ルーペルト、命令にはある程度従って従順なフリする、いい?」 「解ってる。俺の仕えている御人はパトリシアただ一人だ」 「ん、行こう。夢がただ現実になるのを見る為に」  煌く金髪を靡かせ、数メートルも引きずるような法衣を纏いパトリシアは先頭に立つと歩み始める。  その後ろからスヴェンとノエルも付き従う。  今日は剣の国から使者として自堕落勇者カオル・シノザキがくる日であり、同時に夢で見たその最期の日である。   ◇◇◇  笑い声が響き、グラスの音が木霊するような場所。今日の疲れを癒すように重なる皿と注ぎ足される酒、笑い言葉と体で嬉しさを表し大袈裟に言えば怪しまれもせずに笑って流される憩いとなる時間。  木製の床が軋み椅子が時たま倒れ、テーブルが揺れてグラスを掲げる。足りないのならもっともってこいと制服を着込んだウェイトレスに手を振れば愛想よく近づいてくるのだ。 「ご注文をどうぞー」  灰色の髪と耳と尻尾を揺らし、ニコニコと絶えることのない笑顔。艶々とした肌と髪、周囲は夜だか照明に照らされる女性の笑顔にはどんな強面の男たちもだらしなく頬を赤らめふにゃりとした顔になってしまう。
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