神罰の声は高らかに

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 眩しく映るその姿にマスターは目を細めてしまう。哀愁が吹き飛び笑顔にさせられてしまう、それがどれだけの人を救うのか、目の前の女性に感謝すれど首を傾げるばかりで謀れているのだと警戒している様子がまた可笑しかった。   「それはそうと随分と彼のボトルが増えてきたね」 「マスターが珍しいお酒だーって言うのが原因なんですけど」 「ウチの看板娘を誑かしたんだ、少しはお店の売り上げに貢献して貰わねば困るというものだよ。それに、二人揃ってのボトルもあるじゃないか」  年代物のボトルには名札が下げられキープとして他の客に間違って売ってしまわないように工夫がされている。その中にカオルとオルカ、二人分の名前が彫られた名札が下がっていた。  オルカが指差せばマスターは意図を理解して丁寧にオルカの目の前へと置く。 「このお酒の言葉、マスターなら解るでしょう?」 「臆病な私、私の恋。何か想い出でもあるのかい?」 「いつも言いたくて言えないことがあるの。言ったら今の私の存在が消えそうで、私が恋してるのかこれが恋なのかすらもわからなくなって――」 「私から見れば十二分に恋だと思うよ。昔の人は恋を戦争、交渉、賭け事なんて大袈裟に例えるものだ。勿論当人からすればその人なりの戦いなのだろう、勝たなければその人を手に入れられないというのは昔も今も変わらない。だからこそこうとも例える、全てを塗り変えて自分のものにする、と」  何かを思いつめるように暗くなるオルカにマスターは例え話をして、指先でオルカの手元のカップに並々と新たに注がれるミルクを示す。
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