神罰の声は高らかに

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 オルカが繋がりの尻尾を出た時には月が傾き、静かな夜に染まる街を照らしていた。街の明かりもまだらになる頃合は鼻に香る匂いも生活臭もなく、青草と寂びた匂いが少し寂しく感じられる。  月明かりに照らされる部分が少なく、心が締め付けられるような錯覚と血の匂いが混じってきたような気がして鼻を鳴らすが血の匂いなど一切無かった。 「カオル……?」  その血の匂いはいつも嗅いでいる男の匂いに他ならず、そもそも同じ匂いを嗅いでいるので間違えるはずもなく、何度か同じように鼻をひくつかせ一瞬嗅いだはずの匂いを探す。  一瞬、また一瞬、わずかに香る血の匂い。夜の街路地をその血の匂いに釣られるように歩き始めるオルカは胸元に抱いた例の酒に提げてある名札を掴む。  ここに居るはずがない、そんなことは知っている。今頃は神の国へと辿り着き、朝の訪問に備えている大事な時期。軽く挨拶を済ませいつも通り出立したのだ。  それでも、何故か鼻に残る血の匂い、カオルの匂いがそれを許さない。嘘偽りだとしても曲がり角になると微かに香り、オルカを導くように一瞬だけ通り過ぎて道を示す。 「せやから、無理やって言うとるやろ!」  「ちっどいつもこいつも良い子ちゃんばっか」  紫紺のミディアムヘアを揺らし、新調した部隊服に腕章を付けたティアナが片眼鏡を押し上げながら苛立ち混じりに否と返す。  そのティアナの前に堂々と立ち、薔薇のコサージュを乗せた頭を左右に揺らすユーリスが綺麗に整えられた爪を噛みながら悪態を吐くのだ。  とても険悪な雰囲気のまま交わされる言葉に遠慮は無く、二人とも言葉が加熱していく。 「だいたい向こうさんが自堕落勇者一人を指名したんは知っとるなら意味無いって気付いてるやろ!」 「馬鹿ね、私は頭脳担当なの。切った張ったはそっちの専売特許でしょ? 痕跡残したくないからこうして秘密裏に動いてるんでしょう? そんなことも解らない愚鈍な生物なのかしら?」 「そもそもお前最初の時より性格変わりすぎやろ! お嬢様やったやろ!」 「莫迦ね、女は変わるものよ。そういうあんたは暑苦しくて気持ち悪いのが変わってないわね」  白熱する言葉遊びにユーリスが浮かべるのは余裕の笑み、対してティアナは怒りのあまりサーベルの柄に手をかけているのを反対の手で押さえ付けている。  
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