神罰の声は高らかに

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「……そないなこと言ったら、動けんくなる。確かに怪しくないとは言えん、こっちも思惑があってあちらさんもあるのは当然なんやろ。せやけど名実共に巨大な国にお近づきになれるなら良いことやろ、詳しいことは知らんけど未来に希望の有る無しじゃ民の心身に関わる。今はこれからに続く戦いやてアイツ言っとったで」 「それこそ本当に莫迦な話ね、本当に大事な物は懐に抱えて離さないものよ。この国の希望がより大きな国に縋りつくことだとしたらそれこそ笑いものね、何の為に犠牲を増やして小さな国から成り上がったのか解らなくなるじゃない」 「大きくなったからこそ見えてくるもんもある。小さい国の頃には予想や予測なんかできてないことが山積みに――」 「本当にそうかしら? なんでもかんでも我慢するのが大人だと思っているなら、なんでもかんでも行動するのが軍人だと思っているのなら、この国の礎となって死んでいった者達が哀れだわ」  ユーリスの瞳は目の前にいるティアナをその瞳で映す。顔を顰め眉に皺を寄せるばかりの軍人を。  特に何も思うことは無かった、もしかしたらという淡い期待が消えただけで次へと行動すればいいだけの話なのだから。  ティアナから見たユーリスはまるで存在そのものが曖昧だった。夜の街に一人武器も携帯せず堂々とその存在を示していながら街灯に照らされても表情が見え辛く、出来た影が付き従っているようにも感じられる。  影の億から覗く瞳とかち合えば、その瞳は何も映してはいなかった。目の前のティアナという存在を既に認識しておらず路傍の石以下の存在だと決め付けていたのだ。  その薄暗さに思わず帯剣に触れ、感触を確かめるが抜くことはしない。ただ、背筋が凍り武器も持たない女に恐怖を覚えた。 「確かに、そうね、良い子ちゃんばかりだわ」  「さっきからやけに突っかかってくるやないか」 「気にしないで、貴女を見ていると昔の自分を思い出して凄く、苛々するの」 「昔? 昔かてまだ一年も経って――」  ティアナの言葉を遮るようにユーリスが掌を前に出す。ただそれだけの行為なのにまたもティアナの危険信号が大きな音を立てる。 「ごめんなさい、貴女と相容れることは無さそうなの。これ以上時間を無駄にしたくないの、さようなら」  
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