神罰の声は高らかに

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 際立つ異質はまた別に存在している。  粘着質な視線、そちらへと視線を向ければ口元だけで笑う導師のような法衣を纏う男がいた。顔には幾つも古傷が走り片目は潰れているのか隠しているが残りの片目が獣のように輝き確実にカオルを見下していたのだ。  明らかに優しくも善意という好意すら持っていないのが一目で理解できるほど法衣が似合っておらず、本当に形だけの存在であるというのを隠していない。だが滲み出る陰険さが危険だと感じさせるには十分であり、関わりたくないと思わせるには十分。  この手のタイプは調子に乗ると手がつけられず、悪逆非道をなんとも思わない屑。カオルの鼻にこべりつく血の臭いがその男から漂ってくるようだった。 もう一つの視線は思わず身震いするもの。全身が縮み上がり思わず目を見開いて呼吸を整えた。  そこでようやく視線の先を見やれば全身の白いヴェールに覆われた人物が立っていたのだ。まるで囚人や捕虜ともとれる姿だがその人物を気にする人はおらず、居るのが当然とばかりに視線さえ向けない。  表情は見えず僅かばかり覗く口元が小さく動き、何かを喋る。その言葉を聞き取ることも察することもできなかったが背中に冷たい汗が流れ、小さく短い息を吐けばようやく心臓が動いた気がした。  ゆっくりとヴェールの先から伸びた手がひらりと揺れるとカオルに挨拶するように二度、三度と同じ動作を繰り返す。  不気味さが先行する中で魔力が増大していくのを視認できた。間違いなくここに居る誰よりも巨大な魔力はカオルよりも質も量もあるもの。  自身よりも数段は上の相手だと察するのは容易く、これは脅しと挨拶代わりだと言われている気がした。何よりもわかりやすい巨大な力にカオルは思わず笑ってしまいそうになるが、同時に足が若干震えているのに気付く。  魔力が嘘のように消え去るとようやく別の国に来たのだと実感。もう一度ヴェールの人物へと視線を向けるが、そこは最初から誰も居なかったように綺麗さっぱり消えていた。   「勇者カオル――」  法王の言葉に定められたルールを守るカオルには失礼は許されない。あくまでも剣の国が下、神の国が上という立場から願い出なければいけない、それも機嫌を損ねることなく数多の故意を多分に含んだ質問を潜り抜け利益という甘い汁を吸わせるようにしなければいけないのだ。
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